
娘ちゃんはこの世に生まれて一ヶ月半になった
ひかりも音も
すべてが未知との遭遇
見るのも聴くのも全力投球だ
そんな娘ちゃんに
おっぱいを飲ませているとき
なぜだか必ず
あるデジャヴがよぎる
肌寒いプールサイド薄暗い更衣室
塩素のつんとした匂い
わんわん響くこどもたちの声
ぼーっとひとり立ち尽くす自分
私は泳ぐのが苦手なこどもで
いまでもろくに犬かきすらおぼつかない
そんなふうなので
ひと夏に何度かあったプール学習のときには
きまって着替えをするのがビリだった
ただでさえ
「人が5分前ならあんたは10分前行動よ。」と
母に口を酸っぱくさせていた私なのに
着替えのあとに待っているものは
気がすすまないのにもほどがあるクロールなでであるから
遅いのは尚更である
トロトロ着替えて
もう更衣室には自分ひとり
そんなとき
なぜだかいつも
母親の顔が浮かび なぜだかわからないけど
いつか離れなくちゃいけないんだなあ
と思った
唐突にそう思ったのだ
わたしはいつか
別の場所で生きてくんだなあと
そしてきまってせつなく泣きたくなった
あれはなんだったんだろう
いまこうして言葉にできるほど
はっきり認識していたのかはわからないけれど
その感覚が
子を持ってから
やけによみがえるのだ
もしかするとあれはわたしにとって
ひとつの親離れの意識だったのだろうか
あんなにも嫌いなものと戦うのに
そこに母はいなくて自分ひとりで立ち向かわなくてはならないとわかった瞬間
はじめての孤独
いま
自分が娘とぴったりからだをあわせて
このあたたかい体温まぎれもなく一番近くにいるのにも関わらず
よみがえるデジャヴ
自分でも笑ってしまうけれど
どうやらもうすでにわたしは娘の親離れ自分の子離れを想っているらしい
きっと
あまりに愛おしいものは
そこにまぎれもなく在ることの
不在を想ってせつなくなるものなのだろう
今日もすやすやと娘は眠り
母は余計な心配をして
ひとり勝手にせつなくなっているのであった
笑
*